絵画に投資した人たちはどうなったのか
~絵画投資組合ポー・ド・ルルス(熊の皮)で大儲けした100年前のビジネスマン
現在、名作絵画の価格が徐々に高くなっています。
高額で取引された絵画ベスト10を見ると、そのすべてが2011年以降の取引となっています。言い換えれば、2010年代になってから絵画の取引価格が高騰しています。
この傾向は、それ以前からも続いていました。
書籍『巨大化する現代アートビジネス』によれば、「1990年から2000年にかけて、コレクターによるアート作品への投資額は120倍」になったそうです。
絵画投資とはいったいどのようなものか、過去の歴史を探ってみましょう。
かつて絵画は、貴族がパトロンとなって描かせる高級品でした。その貴族の屋敷に飾られる風景画や、貴族自身や家族の肖像画などはプライベートな制作物であり、市場に流通することはありませんでした。
しかし市場経済が発達し、中産階級が増えてきた結果、19世紀頃から一般市場を相手にする職業画家が登場しました。パトロンから解き放たれた画家は、次には絵画ファンの人気に左右されるようになったのです。
19世紀半ばに活動を始めた印象派の画家達は不幸でした。いまだ絵画市場が十分に立ち上がっていなかったため、経済的に困窮したのです。そのため、例えばルノワールは数多くの肖像画を描いて糊口をしのぎました。モネは富豪のパトロンを見つけて生活を安定させますが、そのパトロンが事業に失敗するなど有為転変を味わいます。セザンヌは売れない時代が長く、裕福な実家の援助に頼って暮らしました。絵画の市場ができて、印象派の絵が売れるようになったのは、ようやく19世紀末になってからのことです。
ひとたび認知されると、絵画市場は急速に広がりを見せました。19世紀末から20世紀初頭にかけて、印象派の作品は急激に価格が高騰し、ゴーギャン、ゴッホ、スーラなどポスト印象派の作品も続けて値が上がりました。
ゴッホの絵で有名な画材商のタンギー爺さんの遺族は、絵具の代金代わりに受け取っていたゴッホやセザンヌの油絵を、1895年に画商ヴォラールに二束三文で売却しましたが、それらの絵は数年後に5倍や10倍の価格で売られるようになったのです。
こうした状況に抜け目なく目を光らせたのが、海運業界で成功した実業家アンドレ・ルヴェルでした。ルヴェルは画商と親しく交わりつつ、これから価格が高くなると見込んだ画家の作品を安値で買い集め始めました。
絵画は確実に投資対象になると見込んだルヴェルは、さらに1904年、仲間と資金を募って投資組織ポー・ド・ルルス(熊の皮)を立ち上げました。この名前は、皮を売る利益を求めて熊を追いかけるラ・フォンテーヌの寓話から取ったものです。
毎年2,750フランを絵画購入に充て、10年後に順次売却するというポー・ド・ルルスの活動は、先見の明のある賢いものでした。なにしろ当時はまだ、ピカソの画商として知られるカーンワイラー、著名コレクターのレオ&ガートルード・スタイン兄妹ですら、絵画収集をはじめていなかったのです。
ポー・ド・ルルスの買い集めた、当時の最新の絵画の画家は次のようなものでした。ピカソ、マティス、ゴーギャン、ゴッホ、ヴュイヤール、マルケをはじめとするフォーヴィスムの画家たちと、ドニをはじめとするナビ派の画家たち、そしてローランサン。中でもコレクションの中核となっていたのがピカソとマティスでした。
1904年から1913年、とりわけ1900年代には、友達同士で集まったようなわずか13人の小規模な投資グループにも十分な絵画取得のチャンスがありました。ルヴェルはさらに、画家本人と渡りをつけて直接買うことで、購入経費を安く抑えました。
そして1914年、満を持して開催されたポー・ド・ルルスのコレクションの売り立てオークションは、驚くべき成功を収めました。
売上総額は11万6545フラン。ポー・ド・ルルスの毎年の投資額は2,750フランでしたから、10年間でかかった経費は2万7500フランです。わずか一日の売り立てで、投資金額の3倍以上の粗利を手にしたのです。ちなみに最も高額で落札されたのはピカソ「曲芸師の一家」で、落札金額は購入金額の12倍以上でした。
画家の芸術作品を投資目的で購入し、あらかじめ定めた期間の後に売却する行為は、絵画を金儲けの道具にしたと画家達からの非難を浴びそうですが、そうはなりませんでした。なぜならばポー・ド・ルルスは、そのような批判をあらかじめ折り込んで、利益の20%を画家に還元すると発表していたからです。それまで、転売による利益の恩恵にまったくあずかれなかった画家達はこの決定に欣喜雀躍し、ピカソの友人アポリネールなどの批評家も賛美の声を送りました。
フランス政府が、法律によって転売利益の一部を画家に還元することを決めたのは、それからさらに6年後の1920年のことです。ちなみに、アメリカや日本にはこの種の法律は現在でも存在しません。
さて、多大な成功を収めたポー・ド・ルルスは、絵画市場の黎明期という時代の恩恵を受けただけでしょうか。それとも、見る目のある人であれば今でも同じように絵画投資で成功できるのでしょうか。
その答えを言うのは、野暮というものです。
一つだけ言えるのは、絵画投資にはある程度の期間が必要であることです。なぜならば、絵画は株価や商品先物などと比べると、価格が急激には変動しないからです。
どんな名作でも、購入してすぐに売却すれば、画商に支払う手数料で損金が出てしまいます。ポー・ド・ルルスですら投資を初めてから成果を得るのに10年の月日を要しました。長期的な視点をもってじっくりと投資に取り組むことが、絵画投資の成功の秘訣です。
参考文献
マイケル・C.・フィッツジェラルド,1997,『ギャラリーゲーム―ピカソと画商の戦略』淡交社
ダニエル・グラネ、カトリーヌ・ラムール,2015,『巨大化する現代アートビジネス』紀伊國屋書店
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